選挙制度 比例代表議席配分方ドント式の改善点と小選挙区割り見直しの国会論議について
1.はじめに

 日本の国会議員を選出する選挙制度は、比例代表と選挙区の2本立てである。しかし、どちらの制度も問題点、改善すべき点が見られる。比例代表の議席配分方式は ドント式が用いられているが、この方式は大政党に有利である。それを改善するには具体的にどうすればよいのか論じてみたいと思う。また、最近、衆議院小選挙区の 区割り変更が国会で議論された。この議論の経過について調べ、現在の日本における小選挙区制度とは何なのかも論じてみたいと思う。


2.比例代表制度の改善すべき点

 まず、現行の比例代表の議席配分方式、ドント式の問題点を示している資料1「選挙の話」を次に示す。後編の左側の表を見ると、議席を得票率に応じて配分した 理想議員数に対して、大政党である自民党や民主党は多くの議席を獲得していることがわかる。逆に理想議員数が1に近い新社会党は議席が獲得できていない。 これが大政党に有利というドント式の問題点である。議席配分方式はドント式以外にも奇数列を除数とするサンラグ式等の方法があるが、サンラグ式は逆に小政党に 有利という特長を持っている。完全に平等な議席配分方式は不可能であるが、現行のドント式よりも小政党が議席を取りやすい議席配分方式はないのだろうか。 資料1「選挙の話」の中でピーター・フランクル氏は、ドント式で用いる除数は自然数列であるが、これに調和数列を用いることで各党の獲得議席を理想議員数に 近づけることができることを示している。具体的にはドント式の除数n(n=1,2,3,・・・)を、1+{2n(n+1)/(2n+1)}(n=0,1,2,・・・)にすると ドント式の特長「大政党に有利」が改善されるのである。そこで、この議席配分方式で資料1「選挙の話」の後編の左側の表を用いて各党の獲得議席を求めてみた。 その経過を次の資料2の上側に示す。合わせて、ドント式での各党の議席獲得の経過を試料2の下側に示し、比較してみる。その結果、定数50での最終的な各党の 獲得議席数は変わらなかったが、調和数列式は新社会党の候補が51番目に当選できるのに対し、ドント式では51番目に公明党、52番目に自民党、53番目に 民主党の候補で、54番目にやっと新社会党の候補が当選できるのである。これより若干ではあるが、ドント式の特長「大政党に有利」が改善されたと言えるであろう。 定数がもっと多ければ、その差はさらに顕著になるものと思われる。「大政党に有利」の原因はドント式だけではない。衆議院議員選挙の比例代表では全国11の ブロック別になっているため、小政党にはさらに不利になっている。日本における比例代表制度は選挙区で死票となった少数意見を救うために導入された。 その原点に戻って制度を見直すべきなのではないのだろうか。また、参議院議員選挙の比例代表では、非拘束式名簿が導入された。これも全国で30万票集めても 当選できない候補が現れる等の問題が多く、見直しは絶対に必要であろう。今までの日本の選挙は候補者個人が主体となっていたが、比例代表は政党主体の 選挙制度である。このことを政党、候補者、有権者が共に意識しないと比例代表制度は活かせないのではないだろうか。


3.国会における小選挙区割り見直しの議論の経過

 現行の衆議院小選挙区の区割りは1票の価値の格差が2倍以上の選挙区が存在するため、衆議院選挙区確定審議会の勧告に基づく「5増5減」案を実現するための 公職選挙法改正案を提出することとなった。しかし、区割り見直しの対象議員を中心に「2増3減」案への修正を求める声が上がった。詳しくは次に示す資料3の 上側の記事に書かれている。「2増3減」案にすることで定数減を見送られる選挙区の1つである北海道7区は、「5増5減」案では選挙区を3分割されることになる。 したがって、この選挙区から選出されている議員は反対するのである。資料3の下側の記事には自民党の野中広務・元幹事長が新たに「3増3減」案を提唱したことが 書かれている。「3増3減」案の「2増3減」案との違いは、埼玉に選挙区を1つ増やすことと、1つの市区の異なる選挙区への分割をかなり抑えていることである。しかし、 「2増3減」案や「3増3減」案に「5増5減」案より優れているところがあっても、勧告を軽視していると、これらの案は野党から反発を受けることになる。詳しくは次に示す 資料4の右側の記事に書かれている。「2増3減」案は1票の価値の格差を少なくする点では、勧告の「5増5減」案より優れている。そして、「3増3減」案は 区割り変更となることに強硬な反対を唱える一部議員の選挙区には影響が出ないため、自民党内での支持は根強い。一度、勧告軽視とも取れる修正案を 押し通してしまうと、これからの勧告が形骸化して多数党の党利党略で選挙制度と選挙区割りが決まってしまう恐れがある。特に「3増3減」案は自民党橋本派の 派利派略と言われても仕方がないような修正案である。勧告を最大限に尊重しないと公正さを保つことはできないであろう。

 国会では小選挙区割りの見直しの議論と並行して、選挙制度を根本的に考え直す第9次選挙制度審議会の設置を決定した。詳しくは資料4の左側の記事に書かれている。 総務省は公明党が主張する定数3の中選挙区制度についても議論するため、中選挙区制度を積極的に支持している学者も委員に選ぶことを念頭に置いているようだが、 定数3の中選挙区制度は、明らかに公明党有利の選挙制度のため、支持する学者はほとんどいないようである。公明党は複数の選挙区に分かれている市区は統合して 中選挙区にすることを提言していたが、これも選挙制度を自党に有利にしようという思惑があるのは明白だ。これだと小選挙区と中選挙区と比例代表ブロックが混在する 極めてわかりづらい選挙制度になってしまう。中選挙区制度は長い間、日本の衆議院選挙で用いられた制度で、同じ党の候補が同じ選挙区に立候補する“同士討ち”が 生じるため、政党ではなく候補者主体の選挙となる特長がある。定数は最高5だったため、5つの政党と自民党には5つの派閥が生まれたとされている。各政党が 自党に有利な選挙制度を提唱するのは当然と言えば当然である。共産党も自党に有利な完全比例代表制度を提唱している。第8次選挙制度審議会では、国会議員を 委員にせず、小選挙区制度を導入するという明確な目標があったため、結論を出すことができた。選挙制度の議論には、中立的な立場と明確な目標が絶対に必要である。 選挙制度の変更は議員の政治生命に関わるため、どうしても議員に不満は出る。したがって、中立的な第三者機関で決めるのが、一番筋が通っていると言えるだろう。

 次の資料5の記事は国会での小選挙区割り見直しの議論に対する読売新聞の社説である。この社説でも政府が衆議院に提出した審議会の勧告に基づく 公職選挙法改正案に対して、一部の自民党議員が公然と修正を求めるのは問題だと述べている。確かに勧告軽視は問題ではあるが、最終的に法案が国会を通る以上、 区割りに政党が全く口をはさまないというのは、現実にはできない話であろう。1票の価値の格差を縮小することは絶対に必要であるが、それを実現しようとすると 自民党が強い地方の選挙区数が減って、自民党が比較的弱い都市部の選挙区数が増えてしまう。一部の自民党議員が修正を求めるのもこのためであろう。 この社説の中では衆議院小選挙区の総定数のうち、各都道府県にまず1ずつ分ける区割り方式も問題だと述べられている。これが一票の格差を広げていることは 明白であり、絶対に改める必要があると言える。これを改めても衆議院の定数が480である以上は地方の1票の価値は都市部より重い。しかし、地方の住民からは 議員の定数配分は人口だけでなく面積も考慮すべきといった意見もあるので、ちょうどよいと言えるであろう。

 勧告に基づく「5増5減」案に公然と修正を唱えるのは自民党橋本派の議員が多い。詳しくは資料6の記事に書かれている。これは「5増5減」案で選挙区が変わってしまう 自民党議員が橋本派に多いためである。そのため、1つの市区の異なる選挙区への分割をかなり抑えていて個別選挙区の変更が小さい「3増3減」案が、これらの議員の 支持を集めているのである。橋本派の行動は野党だけでなく自民党の他派閥からも批判を浴びている。一連の小選挙区割り変更の国会論議に関して、野党はどのような 意見を持って望んでいるのだろうか。野党第一党の民主党を例にしてみる。次の資料7では民主党議員が「5増5減」案への自民党内の異論を批判している。 与党を追及するのが野党の役割であるため、与党である自民党内のゴタゴタを追及するのは、野党第一党である民主党としては当然の行為であろう。また、各都道府県に まず1ずつ分ける区割り方式を改めるべきだと主張している。民主党は地方よりも都市部に強い政党であるため、このような基礎配分が撤廃された方が自党に有利に 働くのである。それに対して自民党議員橋本派である総務大臣が否定的な見解を示しているのも基礎配分撤廃が明らかに自民党に不利に働くからであろう。次の資料8は 民主党広報・宣伝委員会が配布しているメールマガジンであるが、この中でも民主党は基礎配分撤廃を強固に主張していることがわかる。基礎配分撤廃は確かに 民主党有利に働くが、1票の価値の格差を縮小するためには不可欠である。1票の価値の格差は衆議院以上に参議院が問題である。定数が少ない上に 半数ずつ改選のため、どうしても1票の価値に大きな格差が生じてしまうのである。参議院は選挙制度自体も含めて衆議院とどのように差をつけていくのか抜本的な改革が 必要であろう。各都道府県から1〜2人ずつ議員を選出して、都道府県の代表者議会という形にしてはどうかという意見もあるが、都道府県制を廃止して道州制にし、 各道州に外交、防衛以外の大幅な権限を与えて日本を連邦国家とするならば、各道州は平等であるということで納得できるが、そうでないのなら国家単位で 考えることになり、今以上に1票の価値の格差が広がってしまうということになる。選挙制度は各院の役割も含めて議論する必要があると言える。

 次の資料9の記事には「5増5減」によって、具体的にどのように選挙区が変化するのかが示されている。北海道7区が3分割され、静岡5区も分割されて消滅し、 東京18区と22区では約20万人の有権者が入れ替わる。資料9の左上の表に詳しく書かれている。今回の区割り変更によって、自治体が分割されるケースが増えている。 格差是正を目指すと、どうしても自治体を分割しなければならない場合が出てくる。市町村合併が進めば、そのようなケースはさらに増えるものと予想される。しかし、 格差是正と小選挙区制度の維持のためには仕方がないことであろう。公明党はそのような選挙区は併合して、中選挙区にすべきだと主張しているが、これこそ完全な 党利党略である。小選挙区を導入した以上は、すべての選挙区を小選挙区にしないと有権者の理解は得られないであろう。この小選挙区制度は政党主体の 選挙制度であるが、選挙運動は依然、候補者個人中心で行われているため、選挙区割りの変更を選出議員が容易に納得しないのである。特に自民党では政党支部とは 名ばかりで、実態は個人後援会というのが実情である。したがって、後援会を他人に渡すことになる選挙区割り変更には難色を示すのである。しかし、これでは 同じ選挙区から同じ候補者が何回も連続で立候補することになり、地域のボスを生み出してしまう。これを防ぐためにも政党が現職、新人に関わらず候補者を吟味し、 それらの候補が政党主体で選挙運動を行う必要がある。これが小選挙区制度のあるべき姿である。また、次の資料10には「5増5減」によって、神奈川県内の選挙区が どのように変化するのかが示されている。これによって横浜、川崎両市にまたがる選挙区の形が解消される。その一方で相模原市は2分割されることになる。地元からは 批判が噴出しているが、相模原市は人口が60万人を超えているため、現在の小選挙区に割り振られる定数が300である以上は分割せざるを得ない。 格差是正のためには仕方がないことであろう。

 この「5増5減」法案も7月19日、衆議院を通過した。そのことが次の資料11の記事に書かれている。自民、公明、保守の与党3党と民主、社民両党の賛成により法案は 可決されたが、この法案により地盤が分割されるなどの影響を受ける5人の自民党議員は党の方針に反して反対した。また、選出選挙区が定数減となる島根である 亀井久興氏ら3氏が退席し、「3増3減」への修正を求めていた野中広務・自民党元幹事長は欠席した。自民党執行部は造反議員に処分は行わず、改正によって著しく 不利となる一部議員には比例名簿の上位登載などの救済措置を取る考えである。日本の小選挙区比例代表並立制において比例代表の上位名簿登載者が、このように 小選挙区での調整にもれた議員や多選のベテラン議員である場合が多いように思われる。これは自民党に最もよく表れている。比例代表制度の最大の利点は 能力が高くても地盤がないため当選するのが難しい候補者が、政党に認めてもらえさえすれば、比例代表名簿の上位に登載されることで当選できることである。 参議院議員選挙に比例代表制度を導入したばかりの頃は、各党とも学者等の有識者を名簿上位に登載していた。しかし、それも時が経つにつれて政党の支援団体の 幹部が名簿上位に名を連ねるようになってしまった。比例代表は小選挙区の救済手段ではない。各党がそれを意識して名簿登載順を決めないと、 制度自体が死んでしまうであろう。

 そして、7月24日に「5増5減」法案は参議院を通過して成立し、全国の68選挙区で区割り変更が確定した。これにより次期衆議院選挙に向けて、影響を受ける 議員の動きが活発化している。詳しくは資料12の上側の記事に書かれている。静岡では選挙区の形が大きく変わるため熾烈な選挙戦が展開され、滋賀や島根では 選挙区が減少するため、候補者の調整に難航することが予想される。また、新選挙区は次期総選挙から適用されるため、10月に補選がある山形と神奈川では補選の 候補者選考にも影響を及ぼしている。この新区割りも1回の選挙だけで、また変更される可能性もある。それは全国で市町村合併が進んでいるためで、現在3218ある 自治体が、3年後には1000台になるという予測がある。また、静岡は人口増加傾向にあるため、再び選挙区が増える可能性もある。

 資料12の下側の記事には中選挙区導入の是非を、今秋設置する予定の第9次選挙制度審議会で検討する方針を政府・与党が固めたことが述べられている。公明党に 配慮して小選挙区制度を覆してしまっては、この区割り変更の議論は意味がないものになってしまう。創価学会員以外の有権者の理解も全く得られないであろう。 次の資料13の記事は「5増5減」法案と1票の格差是正に対する読売新聞の社説である。この社説でも基礎配分方式が存在する限り、一票の格差是正は難しいと 述べられている。基礎配分方式は選挙制度が中選挙区制度から小選挙区制度に切り替える際に、地方の議員定数の大幅減に伴う衝撃をできるだけ和らげる手立てとして 取り入れられた側面がある。社説の意見どおり、現行選挙制度の下ですでに2回の総選挙が行われ、激変緩和の時期は過ぎたと考えるべきだろう。1票の価値の格差を 完全に是正する。そして、第三者機関に1票の価値の格差が2倍以上にならない区割りの議論を委ねるのが、最善であると言えるだろう。


4.全体のまとめ

 現在の衆議院議員選挙には小選挙区比例代表並立制が用いられている。大政党に比較的有利な小選挙区制度に、死票が多いという小選挙区制度の欠点を補う目的で 比例代表制度を加えた選挙制度である。小選挙区制度は1票の価値の格差が2倍以上にならない区割りで、その区割り決定も各政党の思惑を排するため第三者機関に 委ねるべきである。比例代表制度は少数意見を救うために存在するわけだから、大政党に有利な議席配分方式であるドント式は改める必要がある。そして、どちらの 選挙制度も政党主体の性格を持っているため、ただ現職を優先させるだけでなく優秀な候補者を各小選挙区、比例代表名簿上位に立てなければ、制度が活きないだろう。 参議院の選挙制度は、参議院を衆議院に対してどのように位置付けるのかによって考えなければならないが、現在の非拘束式比例代表制度は問題点が多すぎるので 改める必要があると言える。また、選挙制度にはある程度のわかりやすさも必要であろう。たとえ合理的でも複雑すぎる選挙制度は有権者に理解されないからである。 重複立候補制も有権者に完全に理解されているとは言い難い。最善の選挙制度は存在しない。しかし、それに近づける努力を怠ってはならない。 そして、有権者一人一人が政治に関心を持って投票をしなければ、選挙制度が活きることはないのである。



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